Interview

前編後編特別編全曲紹介

ソングライター・チームとしてリリシストとして、今作を作り上げていくなかで、畳野彩加と福富優樹が腕を磨きあげていったのは前編の通り。後編では、福田穂那美、石田成美のリズム隊を含む4ピース・バンドとして、ホームカミングスが、2013年の暗雲差し込める状況をいかに凌ぎ、そして、2014年いかにブレイクスルーを果たしたのかを語ってもらった。『サムハウ・サムホエア』制作時のムードと、その果てに見つけることのできた確信が、率直に伝わってくるテキストとなっているだろう。
interview by 田中亮太

それにしても、畳野さんのなかで歌詞の比重が強まっていったのはどうしてなんでしょうね。

畳野
前まではほんとに何も考えてなくて、ほとんど全部音で書いてた。今思えば、“アイ・ウォント・ユー・バック”をシングルで出したとあとに何回かライヴをして、その時にトミーが毎回懐かしいエピソードを話すようになって。それは作ってるときにそういう話をしてたわけじゃなくて、ライヴでやるようになってからこの人が後付で喋りだしたことなんだけど。私は良いなって思ってて。毎回懐かしエピソードを話してるときに、トミーの話と歌詞がまったく違うから、これはちょっとちゃんとしないとなと思って。それが結構私的には大きくて。ちゃんと意味持たせないとなって。で、今回アルバム作るってなったときに、コンセプトが夜っぽいってのは決まってたので、それに向かって書いていくことができた。

夜っぽいというのが最初のコンセプト?

畳野
夜っぽいアルバムにしたいってのは最初からトミーが言ってて。
福富
それはライナーに書いてるように、そういうのが好きってのもあるんですけど、2013年に土井(玄臣)さんが出したアルバム(『The Illuminated Nightingale』)がきっかけでしたね。あれも夜をテーマにしてて。僕はほんとに今まで音楽を聴いてきて、最初にスピッツ聴いた時とか、ビークル聴いた時とか、ニューウェーヴ聴いた時とか、そういう節目節目のこう「すごい!」みたいに思う時ってあるじゃないですか?「わあ!」みたいな。それあの土井さんのアルバムからも受けて。もうそれしか聴けんみたいな状態になっちゃって。大感動。それから、そういえば自分が好きなものは夜っぽいものが多いなって気づいて、アメリカン・フットボールとかペイヴメントとか、ペイヴメントも一番好きなのは最後のアルバム『テラー・トワイライト』だし、あれも夜っぽいじゃないですか。それで「ああ!」みたいな。ちょうどアルバムどうしようかみたいな時期で、コンセプトを決めようってのを思ってたんですよね。やっぱり初期衝動みたいなのではもう作れんやろうなて、2013年の調子悪かったときには思ってて。じゃあ夜にしましょうって。岩倉の町をペイヴメントとか聴きながら夜1人でずっと散歩してたんですけど、パズルのピースを集めてく感じでしたね。だいたい作る絵は決まってて、そのピースを夜集めてたって感じはあるな。それが引っ越しする3月くらいまで。

調子の悪かった2013年に、それでもバンドを続けていけた原動力は?

畳野
小山内さんかなあ(笑)。
福富
(笑)。小山内さんがいろいろライヴを決めてきてくれたり、持ってきてくれたりってのもあったんですけど。そもそも小山内さんに感謝の念がやっぱり。
畳野
恩返しがしたいっていう気持ちが強かったね。
福富
これでね、ファースト出て解散みたいな、まあたまにあるじゃないですか。そういうギタポバンドとかって。DOMとかもミニ・アルバム2枚作って終わったし。ああいうのは申し訳ないし。あとやっぱり状況だけはすごい良くなっていったから。フジロック出れたこともそうですし、ボロフェスタもあのでっかいステージでやれたし。2013年のボロフェスタはやってる側も大感動みたいな。

どこかのタイミングで畳野さんはギターを変えましたよね。あれは2013、2014年どっちでしたっけ?

畳野
それも2014年になってから。そこまでは別に変える必要ないかなって思っとったけど。なんだろうな?なんで変えたんやろ。なんか音も飽きちゃって。前のジャグマスターの音も。
福富
あれはリサイクル・ショップで買ったやつで、ちゃかちゃかしたジャングリーなのをやるにはあれでいいんですけど。いろんなことをやろうと思ったらあれではできないこともあるし。
畳野
その前にシャム(キャッツ)とやったんですけど、夏目さんが335を使ってるんですよ。それで素敵だなって思って。「夏目さん素敵」って。それもあって、衝動買いした。

2013年の厄祓い的なアングルもあったのでしょうか?

畳野
停滞して何も成長のない1年。
福富
部活で最初はギター・ポップって括りでバンド組んでみて。それにもう自分らで飽きたって言ったらあれですけど、これだけをずっとやるのは違うなみたいになってるけど、
畳野
そうそう、新しいことをうちらはできないと思っとったとこもあるし、自分らのキャパ的にも。音楽めちゃくちゃ詳しいわけでもないし、引き出しも少ないし、こうしたらこうなるってのも全然わかってないから、たぶん変わんないんだろうなって思いながらも、少し新しいことをしたいって思いのままに曲を作っていったって感じ。
福富
だからほんと小山内さんがいたことと状況が良かったことが、
畳野
私たちの2013年はそれだけ。
福富
だから、あのミニ・アルバムを作って解散ってのも、もちろん出した当時は「最高最高」って思ってましたけど、今思うと危なかったかもしれない。
畳野
あるかも。でも、2014年はそっからガッていった感じはあるよね。
福富
2013年が終わって、引っ越ししたあたりからいろいろ変わって。状況も良くなり、曲も作れ、さっちゃんのもあり
畳野
早かったけど、やることやったグレイトな年になった。
福富
で、シャムキャッツ、ミツメ、ザ・なつやすみバンド、スカートとか憧れのバンドとやれつつ、ちゃんとヨギー(・ニュー・ウェーヴス)とか同じ世代のバンドとも仲良くなるってこともできたし。ボロフェスタでスースとかとも仲良くなって。

2人は家も近いしよく会ってると思うんですけど、その「なんだかできそう」みたいなムードをリズム隊の2人にはどういう風に伝播させていったんですか?

福富
最後までそれは完璧には伝えれなかったと思う。伝わりきれないまま。それはどちらが悪いとかではなくて、締め切りが決まってたってこともあるし。この2人はこういう曲って完成図が完全にできてたけど、それはもうパソコンとかにデモがあるんじゃなく、実際は口伝えでコードだけあって、メロディはまだ乗っけてないみたいな状態やし。いくら参考曲を送ってるとはいえ、逆の立場からしたら難しかったやろなと思う。
畳野
メロディも乗ってない曲に、ベース弾いたり、ドラム叩いたりして、わけわかんないんだろうなと。
福富
で僕らが参考例として出してくるものも今までとは変わったから。今まではもうそのままギターをジャンジャン鳴らしてベース弾いてドラム叩いて歌入れて完成みたいな。今回は抜き差しもあるし急に変化したって感じやったと思う。

彼女たちにとっては全体像が見えづらい制作だったと思いますか?

福富
いや~、そうですね。
畳野
ほんとにメロディが乗るまでは何もわからなかったと思う。アルバムのこと。
福富
夜っぽくしようとか映画の感じとかは言ってたけど。うーん、全体像は真っ白だったんじゃないかな。
畳野
不安でいっぱいだっただろうなと思うもん。うちらは「もういける絶対いける」って自信があったし。
福富
そう。あったし。「なんなのあの2人はノロノロしてもう」って。作ってる時は「もっとこいよ!」みたいな。
畳野
そういうのとかもねえ、いっぱいあって。

今の話を聞いてびっくりしたんですけど、メロディがない状態でアンサンブルのみ決まっていったりするもんなんですね。

畳野
うーん。でもそんなん初めてだったよ。
福富
僕らにとっては初めてだった。普通のバンドだったらもっとセッションとかでできたりとか。曲の全体像はデモとしてもう打ち込まれてたりとかはあるかもしれないですけど。
畳野
イントロ!Aメロ!Bメロ!サビ!間奏!って演奏のみしっかり決まってて、メロディは何もないってのはあんまないかも。
福富
レコーディングを2回にわけてやったんですけど、その2回のなかでもヴォーカル録りとバンド録りみたいなのがあって。バンド録りのなかでもリズム隊とギターでばきっと分かれてたので。ほんとになにもわからんまま叩いて、そのあとギターが乗って、1ヶ月後にメロディ乗るみたいな。だからすごい大変やったと思うし、すごい僕らが頑固に見えたときもあったかもしれない。

主旋律がない状態でも、この2人がそこまでに確信を持てたのがすごいと思う。

福富
それはあったね。
畳野
うん、あった。“グレート・エスケープ”と“レモン・サウンズ”はまったく何もできてなかった。で、私もトミに何回も「メロディできた?」って訊かれて。「できない!ほんとにできない!」って。レコーディング当日までなんにもなしで行ったんですよ。なにも考えずに行って。で、小さなはこに1人入り、見たこともない歌詞を読み、そこに歌を乗っけていったって感じ。でも、その時のアドレナリンはんぱなかったよね?
福富
うん。
畳野
自分でもびっくりするくらいにできた。
福富
でも、できないって不安とかはなかったよ。
畳野
私も不安じゃなくて、いけるやろって思ってて。それも私の馬鹿なとこなんだけど。当日まで何も考えずに行っちゃうところとか。だけど、なんとなくお互いに大丈夫でしょって思ってた。メロディ入れる日も2人しかいなくて。で、トミは途中で帰るから。もうほぼ1人でメロディをやった。コーラスも最初全部1人で入れて。あとであの2人に歌ってもらったんですけど。そのへんの自分の集中力がはんぱなかった。それはたぶんそれを見てた信ちゃんとか録ってくれた荻野さんとかがよくわかってるはず。でも、それきっかけで自分のキャパが広がった気がして。「新曲の部屋」とか出たやん1人で。その時もできるんだって思った。度胸もついたし。
福富
昔から天才やからな。
畳野
ずっと言うよね、それを。「彩加さんは天才だから、馬鹿だけど」って。
福富
天才。だけどほんと馬鹿。
畳野
ろくに音楽も聴かないし、本も読まないし、なんにも興味ないし、ほんとに馬鹿だけど、天才だよねっていつも褒めてくれる。

リズム隊2人の参考音源に対する反応のはでどうでした?これまでと違うラインであることに抵抗感を示すこともあった?

畳野
ほぼあったよね。
福富
けど、まあ、バンドとしてとかではなくて、参考で持ってきた曲にって感じでしたね。ホームカミングスでこの曲はってよりは、この曲自体の良さがわからんとか。
畳野
この曲わかんないってのがほぼ全部やんな。
福富
そこで、僕らは僕らで「いやいや」みたいな。
畳野
参考音源が好きじゃないってよりも、それを参考にしてる意味がわからない。それを参考にしてうちらが弾いてきたものにも、「それを参考にしてるの!?」みたいな感じやった。だから??だらけで。うちらが「これでいきます」って言ったものに対して。
福富
僕らにしたら、この曲とこの曲とこの曲をあわせて、ぐしゃーってしてぽんとできたのがこれなんですって感じやけど、ぐしゃぐしゃにしたもとだけを渡しても、「それどうやったらこんなのになんの?」って。
畳野
そうそう。

AとBを足してどうしてこのCになるのかわからないみたいな?

福富
単純にAの真似してもBの真似してもダメやしみたいな。
畳野
それをうちらも求めてないし。Cを求めてるから。

彼女たちにCをやらせるために2人はわりと強権発動した感じ?

福富
うーん。わりとそうだったかもしれないです。結構もうこれ!って。わりと頑固で。でもそのなかで作曲のクレジットを4人にしてるのは、あの2人の意見で変えることもあるからなんですけど。“レモン・サウンズ”とかは最後までずっとあの2人は、
畳野
ぼやってしてたね。
福富
全然良くないみたいな。それは言われたしね。酔った勢いで。
畳野
まあ、そのときはメロディできてなかったし。
福富
でも、僕らは「いやいや」って。
畳野
この2人のなかではこういう曲っていうのがもう完成してるから。いや、もう絶対必要だし、絶対入れるって。
福富
最初に作った1から10曲目までのリスト、それも共有してなかったと思うから。1曲1曲ばらばらで作る順番も違うし、僕らは1曲ごとの完成図も見えてるし、アルバム全体像も見えてるけど、そこは難しかったと思う。別に殴り合いの喧嘩とかはしてないですけど、結構強引目にはやったと思う。

2人から見て、彼女たちはホームカミングスってどういうバンドだって定義してたのだと思います?

福富
うーん。難しいなあ、それは。
畳野
うーん。
福富
そもそも4人が4人全員ギター・ポップをめちゃめちゃ好きでギター・ポップ・バンドを始めたわけではないので。たぶんそれはずっと曖昧というか、こうあるべきというか、ホームカミングスがどういうバンドっすか、ってのは。それは4人ともそうなんですけど。ずっと本人らは別に。
畳野
なんかね、ないよね。「どういうバンドなの?」って訊かれても答えれないよね。たぶん4人全員。
福富
可愛い感じの曲でってのでも、
畳野
ないし。
福富
でもレビューとか書かれるときにはギター・ポップとかネオアコとか書かれるんやろうなってのは別にそれはもう理解してるというか納得はしてるけど。
畳野
自分らが納得できる言い方はわからん。だから結局こうあるべきだとかこうなりたいとかはなくて。
福富
目標とかも別に。

でもこうなりたくないってのはしっかりあるでしょ?

畳野
そうなんよね。
福富
今びっくりしたやろ?
畳野
うん、私さっきのインタビューで同じこと言ったから。「こうなりたいってのはないけど、こうなりたくないってのはありますね」って。びっくりした。
福富
うん、こうなりたくないってのはすごくある。

いくつか挙げてもらえますか?

福富
これはもうクリアしてると思うんですけど、ファースト・ミニ・アルバムの1曲目しか良くないバンドっているじゃないですか?
畳野
ははは。
福富
日本のバンドは特に多いような気がするんですけど。例えば僕らやったら“ユー・ネヴァー・キス”しかないみたいな。それはもう大丈夫だと思うんですけど。あとは何かなー。
畳野
うーん。私的には、女の子が歌っとるガールズ・バンドにはなりたくない。イメージ的に。わかる?
福富
うーん。
畳野
なんかガールズ・バンドってイメージではなくて自分的には。あんまりガールズを推したくないというか。

そこもクリアしてると思います。彩加さんは曲にも詞にもドライで、自分のことも歌ってないし。女性ならではの表現になってないと思う。

福富
逆にあります?

うーん。むしろ、こうなってほしいってのはあるけど。それは推薦レビューだったりサインマグの原稿だったりで書いてるかな。

福富
小山内さんはどうですか?
小山内
オレ?
福富
P-Vineに行ってほしくないとか、そういうのじゃなくて。
一同
(笑)
小山内
でも、一本筋が通ってるのがホームカミングスは良いと思うから、そっからずれてほしくないなとは思う。

ただ、わからないですけど、その芯が通ってるっていうか、その頑固さはこの2人もそうだけど、穂那美さん、成美さんもかなりハードなんじゃないかなって印象もあって。

畳野
うん。なんだろうね。曲作りに関しては、穂那ちゃんはすごく厳しくて。
福富
なるちゃんも厳しいやん?
畳野
厳しいけど、私のイメージ的には、穂那ちゃんがすごく厳しいっていう。あの人こそほんとに感覚、全部。耳も良いし。
福富
でもほんと音楽は聴かない。
畳野
ほんっとに聴かない。毎日猫が牧場で走り回るゲームばっかして。あとはハリネズミ見たり、犬見たり、猫見たり。あとは寝てるんですよ。だからインタビューとかでもそういう話されると、穂那ちゃんはすんごい嫌な感じが伝わってくる。だけど、音楽の感覚はすごくて。穂那ちゃんの良いって思う感覚ってホームカミングス的に大事。それはすごい思ってる。この2人でやってても、たぶん全然違うものができるし、穂那ちゃんが感覚でベース弾いてて、このコード進行は嫌だとかこの展開は嫌だとか、結構言うんだよね。でも、それって毎回わりと通ってて。ね?
福富
うん。
畳野
で、うちらが「そうかなぁ」と思っても結局変える。だから私的にはあの2人の感覚には助けられてて。穂那ちゃんはコード進行でうるさいけど、なるちゃんはリズムに対してすごい厳しい、ストイックていうイメージがあって。4人でもう一番ストイックなんですよ。ドラムも個人練習してるし。なるちゃんはすごい努力するタイプで、穂那ちゃんはすごい感覚の人って感じがする。その2人のバランスもちょうど良いんですよね。
福富
僕らが作ったものがスルーしていかないところが、すごいいいというか。絶対ひっかかってくれる。絶対「ちょっとちょっと」みたいな。
畳野
そうそう、じゃあベース弾いてくださいドラム叩いてください、はいできましたってのが絶対なくて。絶対にあの2人が一回は「うーん」って言う。入りからまず「うーん」から始まるから(笑)
福富
それが腹立つ時もあるんですよ。
畳野
もっと言い方あるじゃんって思ったり。ダメしか言わないから。でも、どうすればいい?って訊いたらわからんって言うからね、だいたい。
福富
で、黙りこくる。
畳野
そう!その瞬間とかめっちゃくちゃ腹立つけど、それがすごい助かってるから。それでうちらも「じゃあどうしよう」ってなるので。めっちゃ考える。それが大事かなあ。ねえ?
福富
うん。
畳野
で、あの2人が良いって言ったらたぶんすごく良いんですよ、状態的にも。ここ2人だけが良いって言ってるときはちょっとあんまりで。4人がばってやって「良い!」ってなったときは、結構ね完璧だよね。
福富
そこが作曲は4人にしてるとこですね。そこが一番。
畳野
なんか解散するかしないかみたいになったときがあって。その時に「うちらじゃなくてもいいんじゃない」みたいなこと言ってたんですよ。だけど、それがまったくそうじゃないってことを改めて思った。助けられてる部分がたくさんあるから。あの人たちに。
福富
2014年って括りでいい言えば、“白い光の朝に”の時の「良い!」はすごかったけど、アルバムはやっぱり最後の最後になるまでわからなかったんじゃないかな。この曲順で並んで詞もついてってところで、
畳野
「うわーすごい!」って言ったんで。その時にやっと安心した。