SPECIAL INTERVIEW

02

Homecomingsの新作『WHALE LIVING』をめぐるメンバー全員参加のロング・インタヴュー。この中編では、アルバムの全体像を浮き上がらせていこう。“Songbirds”以外の全曲が日本語詞という、この名義では頑なに英語詞を貫いてきたバンドからすると大胆な挑戦作とも思える本作。なぜ、彼らはこのタイミングで一気に舵を切ったのか? そして、その手法の変化が音楽面に及ぼした影響とは? 話は、前作からバンドに携わり、イヴェント〈New Neighbors〉を共同主催しているイラストレーター、サヌキナオヤが手掛けた本作のアートワーク制作秘話にまで及んだ。

INTERVIEWER 田中亮太

――10曲中9曲が日本語詞というのは、大胆な変化だと思いますが、一気に舵を切った背景は?

福富優樹(Gt)「単純に『SALE OF BROKEN DREAMS』で英語で歌うバンドとしての表現という点で、満足がいくものが作れたというのもひとつの理由ではありつつ、もともと日本語でいつかはやりたいな、とは思ってたんです。少しきつい表現にはなってしまうんですけど、さっき話したようなバンドが続いていくかどうかわからないっていう状態を経験したことで、バンドが続けていられることもそうなんですが、ちゃんとレーベルから制作費が出て、いろんなお店で取り扱ってもらう、そしてそれをたくさんの人が楽しみに待っていてくれることが当たり前じゃないよな、って思ったんですよね。バンドにはそれぞれ賞味期限のようなものがあるんだとわかった

――……ええ。

福富「そこで、あと何枚ちゃんとした形でアルバムを作れるのかなって考えたときに、案外僕たちに残された時間って少ないような気がしたんですよね。亮太さんとかバンドに近しい人ならわかると思うんですけど僕たちの温度感ってこんな感じじゃないですか。自主でバリバリやります!っていうのも、ゆっくりマイペースに宅録して気ままにリリースします、っていうのもこのバンドではあんまり考えられないよな、っていうか。だからこそやりたいことがあるんだったら、いますぐにやらないとな、と思いました。ここまでやってきて、終わったときに後悔するのは嫌だなと」

――そんな切迫した背景があったとは。

福富「作品がバンドを引っ張っていく、はっきりとした言葉を使うなら〈寿命をのばす〉っていうこともあると思うので、このアルバムを作ったことによって少しでもバンドにとって良い作用があればいいなと思っていますね」

――福富さん以外の3人は、彼の日本語詞に対して、どんな印象を持たれていますか?

福田穂那美(Ba)「いや、すごく詩的で良いと思います(笑)」

石田成美(Dr)「日本語でやっても、そんな感じなんやなって」

福田「ぜんぜん違和感がなかったね」

――その違和感のなさについて掘り下げると、彼の作詞家としての個性はどういう点にあると思います?

福田「なんか良い意味で直接的じゃないというか、ある程度聴き手に託される感じがありますよね。そういうのも良いし、言葉の選び方とかもいちいち〈なるほどなー〉と思える」

福富「歌詞でどれがいちばん好きですか?」

福田「えー(笑)。難しいな。うーん……曲も合わせて“Blue Hour”がめっちゃ好きですね」

福富「いままでで?」

福田「いままででとかはわからへん(笑)。私は福富くんと違って新しいものがいちばんとは言えへんし、いままでの曲も好きやから

石田「私は“So Far”かな」

そこが君に合っているなら
日々はそれで回るから

返事を書くよ
読まなくていいけど

“So Far”

畳野彩加(Gt / Vo)「私も“So Farの”歌詞は好きかも。歌詞に関しては、私はわりと言ってほしいことを、言ってくれてないと感じるときもあって。直接的じゃないという良い面もあるけれど、私は曲を書くうえでメンバーのなかでも最初に歌詞を読むから、〈結局何が言いたいのかなー〉と思って、修正してもらうこともあるんですよ。そのうえで、わかりやすい表現になっているのが、“So Far”なのかなと思いますね。福富くんの歌詞はたまに詩的すぎるときがあって、歌詞のなかで繋がりが見えづらいときもあるので」

福田「自分でいちばん気に入ってるのは?」

福富「いままでで(笑)? 歌詞に関しては、前作のほうが、自分が好きなものを作りきった感じがあって満足はしているかな。音源としては、今作がいままででいちばん好きなんだけど、まだ日本語での歌詞の部分は伸びしろがあるなと思えるんです」

畳野「それはそう思うな」

福富「自分なりに韻を踏まなあかんとか、そういうのを考えながら、でも時間はないなかで作った感じもあって。だから満足しているけど、まだ次行けるなとも思う。今回は歌詞というよりメロディー、曲としてすごく好きなんですよね」

――日本語と英語では同じメロディーに乗せられる単語の量が違ってくるので、福富さん特有の米文学的なレトリックとは異った表現方法――これまでよりは平易な言葉で書いている印象です。とはいえ、ロマンティックな比喩は福富さんならではですが。それにしても、いきなり全曲を日本語っていうのは思い切りました。

福富「なんかね、混ざるとかはあんまり考えられなくて。サウンドの面でも“Songbirds”はアルバムに入れることができるけど、“PLAY YARD SYMPHONY”とかはしっくりこないんだろうなと感じたんです。自分たちが英語でやったときのオルタナっぽい感じとかは、今回は必要ないなと」

――“Songbirds”以降の温度感というか、〈ただ良い曲を作ろう〉というイメージが共有されていた?

一同「そうですね」

――アルバムを聴いてみて、 “Songbirds”はソングライティングやアレンジの面において集大成でもありつつ、あの曲を境にバンドが新たな一歩を踏み出したように感じました。畳野さんの歌い方やメロディーの運び方も変化していますね?

畳野「そうですね……日本語を乗せるメロディーや歌い方を考える際には、いままでやってきたこととは別物――もはや新しいバンドを始めるというか、それくらい新しい脳の使い方をしました。だから制作の時は日本のバンドをいろいろ聴き、いろんなパターンを頭に入れて、どれがいちばん自分的に気持ちがいいか、バンドとして変な感じにならないかを考えてましたね」

石田「畳野さんはレコーディングではめちゃ迷っていましたね。ソフトすぎてもなーとちょっと張ってみたり、いろんなパターンや塩梅を試してみて」

――それまでの畳野さんはサビでキーを上げることで、聴き手にとってグッとエモくなるポイントを作っていたけど、今回はほとんど封印していますよね。なので、ビッグなアンセム感を意識的に避けたような印象も受けました。

福富「“HURTS“や“PLAY YARD SYMPHONY”の感じとはまったく違っていますよね」

畳野「歌いかたは変えましたね。今回は、優しく歌うように気を付けました」

――前作は〈SALE OF BROKEN DREAMS〉という言葉からコンセプトを発展させていったようですが、今回アルバムのテーマはどのように定まっていったのでしょうか?

福富「テーマとしては“Songbirds”で書いてたことが大きな影響を与えていて。“Songbirds”では、2つの線があって、それらは絶対に交わらないけど、たまに近くなったりもする――その距離みたいなものを大きく捉えて描いたんです。今回はそれを日本語で……となった場合、自分の身を切って書くようなタイプじゃないと思ったので、フィクションとしてストーリーを書こうとしました」

――前作はダイベックの短編集「シカゴ育ち」などにインスパイアされたアンソロジー的な作品だったことに対し、今回は、全編を通じて同じキャラクターを描いているように思えました。連作短編というか、通して聴くと長編の読後感に近い。

福富「キャラクターがいっぱいいるというよりは、2人がいて、一応男女ってことにしているんだけど、彼らは場所や距離も離れていて、そのなかで手紙とかを使ってやりとりするなかで、どういうふうなことを思うかをまず考えました。そのうえで、それぞれのシチュエーションなどを肉付けしていって。主人公は2人っていうことと距離をテーマにするというのが自分のなかにはあって、そのうえで〈WHALE LIVING〉という言葉はどうしても使いたかったんです。それが全部を象徴する言葉になるようなものをめざした。

手紙を書いても出さないときってあるじゃないですか。読み返すと恥ずかしくなって出さずに部屋の引き出しにしまっている手紙とか。僕はあるんですけど、そういうのって結局伝わるようにも思ったんです。実際に出してはないし、相手に届いてもいないけど、なぜか言いたかったことや気持ちが伝わる――そういうことってよくある気がした。その背景を膨らませていったなかで、〈WHALE LIVING〉という場所が海の底にあり、郵便局じゃないですけど、そこを介して気持ちが届いているみたいなイメージをしたんです」

――そういう話はアルバムを作り上げるうえで、他のメンバーにも共有するのですか?

福富「いや、歌詞はそこまで言わないですね。歌詞ありきで彩加さんが曲を作ることが多いから、出来上がったら送るんですけど、そこまで説明はしないかな。歌入れのときに軽く話すことはあるけれど、練習スタジオとかでそんなにクドクド言えないじゃないですか(笑)?」

畳野「そういうこと言ってほしいんやけどなー」

福田「そうそう。だってイメージが共有できひんやん」

福富「でも、あまりそれに縛られすぎるのも良くないでしょ? あくまで歌詞を書く上でのコンセプトなわけですから」

――〈WHALE LIVING〉という言葉は、そのタイトルを冠した楽曲にもなりましたね。

福富「実は前2作には、アルバムのタイトルと同じ名前の楽曲は入ってなかったんですけど、今回ようやく作れました。いままでは全体で語るみたいな感じやったけど、作品の核みたいな一曲を作れたことは自分的には大きいです。ここにテーマが集約していき、かつ最終曲の“Songbirds”と並べることで、また見えてくるものがあるなと思った。僕が唯一メロディーも考えた曲だし、そういう意味ではいちばん思い入れが強いかもしれない。ピアノを弾いているのはなるちゃんだし、ストリングスも入っててバンドとしても新しい面も出せてる。僕はめっちゃ良い曲やと思うんやけどな。でも、みんなはあんまり言わないから……」

畳野「いや、思ってるよ」

福富「僕はこれがいちばん、どう考えても」

福田「どう考えても(笑)」

――この曲や一曲目の“Lighthouse Melodies”などはストリングスが耳を引きますが、前EPの“PLAY YARD SYMPHONY”とはまた質感が違いますね。ぐっと柔らかくて室内楽的な音になっている。参照点にしたアレンジャーはいますか?

福富「うーん……ランディ・ニューマンかな。もともと『トイ・ストーリー』をきっかけに好きではあったんですけど、最近あらためて掘り下げて聴くようになったんです。あとはニコの『Chelsea Girls』(67年)のストリングスの入り方とか。ストリングスのアレンジはSpecial Favorite MusicのHaruna Miyataさんに頼んでいて、お願いするときにそんな話をしましたね」

――ニコは同作収録の“These Days”を、バンドの登場SEにされていますよね。

福富「SEにしてるのは、 『ロイヤルテネンバウムズ』(2001年)で流れるという〈映画〉というところから選んだんですけど、結果的にそれがアルバムにも影響を与えていますね」

――“Whale Living”までの9曲のあとで、最後に唯一の英語詞である“Songbirds”を据えた構成には、ホムカミとサヌキナオヤさん主宰のイヴェント〈New Neighbors〉で上映された映画『スモーク』(95年)のラスト・シークエンスを思い出しました。劇中劇というか、物語のなかに別のフェィズの物語が収まっていることで、より感動が深みを増していると思います。

福富「なるほどねー、ありがとうございます。僕は“Songbirds”から着想を得て、ストーリーを書きはじめたので、それこそエンドロールじゃないけど、最後に“Songbirds”が流れるというイメージはありました。その話はしてたっけ?」

畳野「してなくても、たぶんそうなることはわかってたかな」

――前作『SALE OF BROKEN DREAMS』以降にはじめた〈New Neighbors〉もバンドにとって大きな存在となりましたね。地元・京都のみならず東京での開催も実現し、11月には〈新千歳空港国際アニメーション映画祭〉内で『犬ヶ島』(2018年)を上映作品に開催するという。

福富「前作でのいちばんの収穫は、サヌキさんとやれたことだと思いますね。あれ以降ガッツリ一緒にやりはじめたので。〈New Neighbors〉で得たものはむちゃくちゃ多いです。自分たちはこういうバンドです、と言える1つのものを手にしたというか、〈New Neighbors〉をやってるってこと自体がバンドの1つのアイデンティティーになった。そういった自分たちの個性、自分たちだからこそできることを、ずっと探してたところもあったので」

畳野「うん、あれはホムカミとサヌキさんの関係性だから出来るものだと思ってます」

――そして、新作のジャケットもサヌキさんが手掛けていて。これまでの彼の作品イメージとは一味違った、リリカルで流麗なタッチが素敵です。

福富「サヌキさんとジャケットの打ち合わせするときに、僕が〈シー・アンド・ケイクのアルバムみたいなものをイメージしてる〉という話をしたら、サヌキさんもちょうどサム・プレコップの写真集『PHOTOGRAPHS』を持ってきていたんですよ。加えて〈WHALE LIVING〉って言葉からなんとなく家具っぽいものを想像していてと伝えると、〈あー、その感じですね〉とまず家具っぽいものを描いてくれた。ただ、そうしていくなかで話が発展していき、〈それやったらもう実際に家具を作ってしまおう〉と、サヌキさんのイラストを印刷した壁紙を作ったんです。実はこれグラフィックじゃなくて、壁紙の写真なんですよ」

――へー! 普通にデータを入稿したものかと思ったので、いま写真だと聞いてびっくりしました。

福富「壁紙にプリントできる印刷所が大阪にしかなくて、(東京在住の)サヌキさんがわざわざ大阪まで行ったんです。でも、それがあの台風の日で。サヌキさんはその日のうちに東京に戻らないといけなかったらしく、〈たぶん大丈夫やろ〉と行ったみたいなんですけど、結局電車や新幹線も止まり、夜には東京に帰るのはおろか大阪からも動けんくなって。結局、僕がレンタカーを借りて京都から迎えに行ったんです。サヌキさん、ズブ濡れで震えていました(笑)」

畳野「ジャケットをよく見ると、ちょっと陰が入ってたり、本物ならではの質感が出ていますよね。なかのブックレットの絵もいままでと画風が違っているんですよ。〈めっちゃ描いた〉と言ってました」

福富「これはサヌキさん、何か賞をとってもおかしくないと思うんやけどな。めっちゃ大変な思いをして作ったものやし(笑)」

(続く)

01 / 02 / 03
TOP