PET MILK

 リキッドでワンマンをすることになって、最初にタイトルをいくつかぼんやりと考えた。新しいアルバムやシングルが出るタイミングではないけれど、Homecomingsにとってひとつの大事な節目になるようなタイミングになるので、なんとなくそんな意味合いのタイトルにしたいなと思っていた。一ヶ月も先の引っ越しのためにダンボールに詰めてしまっていたDVDやブルーレイや本を、もう一度引っくり返してぱらぱらとめくってみたり、映画のタイトルをざっと見渡してみたりして、タイトルになりそうなアイデアを探しているうちに(こういうときに、棚いっぱいの映画や本やレコードに助けられることが多い)、もうずいぶんと観なおしていない一本の映画がやけに気になった。『St. Elmo’s Fire』。大学を卒業した若者たちが大人になることや、社会のなかで生活していくことへ戸惑いながら向き合っていく様子を描いた映画で、たしかodd eyesのシュウトくんが教えてくれたんだったと思う。冬っぽい赤と灯りのジャケットが目に止まったのもあると思うけど、その内容もなんだか自分たちの今のタイミングにも合っているような気がして、久しぶりに觀てみることにした。物語の終盤、「セントエルモスファイヤは船乗りたちを導く光なんだよ、でもそんなのはでっちあげなんだけどね」というセリフがあって、去年出した『Whale Living』の物語ともぴったりだなと思った。本当の火なんかじゃなくてただの放電が目に見える現象だよ、っていうのもなんだかいいなと思った。でも、そういうものに導かれてるような気になることも、たまには大事だったりするのだ。いいじゃないか、『St. Elmo’s Fire』。忘れないようにノートの端っこに書いておいた。

 そのすぐあとに、京都アニメーションの事件があった。ことばにならないぐらい悲しかった。事件のあとに差別的なデマが広がっていくのをリアルタイムで見たりしたこともあって、ただただ悲しくてどうしようもなかった。少しして、イベントのフライヤーをそろそろ、というタイミングで、タイトルのなかに今はあまり使いたくない言葉が入っていることに気がついた。最初にいくつか考えていたアイデアのメモを見直したけど、どれもあまりしっくりこなかった。曲のタイトルをつけるときもイベントのタイトルをつけるときもそうだけど、そこからなにか匂いがするようなものを選んだり考えるようにしている。寂しい匂いでも優しくて暖かい匂いでも、公園の草の匂いや体育館の匂い、西日の匂い、冬の朝の匂い。それはHomecomingsという4人がどんな4人なのか、ということでもあるような気もしている。大げさな話なのかもしれないけれど、YOUR SONG IS GOODやシャムキャッツなんかも同じように考えているんじゃないかなと思うし、多分僕はそういう自分が大好きな音楽に、音楽以上の影響を受けている。

 ずっと大好きな短編集がある。スチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』という短編集。海外の小説をたくさん読むようになったきっかけの本でもあるし、自分の歌詞の書き方にもとても影響を受けている(特に『SALE OF BROKEN DREAMS』の曲の歌詞なんかはそうだ)。今でも外にでかけるときには、必ずカバンの中に入れていく本。そのなかに「ペットミルク」という短編がある。恋人との過去のシーンを思い出す優しいまなざしと、過去の自分とまたその過去の自分が交差する瞬間の、とても美しい数ページの短い短編がとても好きだ。なぜかそのシーンのことがふと頭に浮かんできた。ある冬の夜に、今の僕たちとこれまでの僕たちと、そしてこれからの僕たち、そのなかで一瞬時間が止まったような、魔法のような角度でいろいろな感情が差し込むような、そんな時間になれば、そんなライブになればいいなと思った。

 あの事件のあとからのライブでは、ずっと『Songbirds』を一曲目に演奏した。それは僕たちなりの祈りのようなものだったし、本当のことを言うと、この曲の前になにを話せばいいのか分からなかったからでもある。僕たちにできること、僕たちだからできることは、やっぱり音楽を作ることだ。だから『Torch Song』という曲を作った。ランプや暖かな光、その中にある火を怖がらなくていいように、という気持ちを込めて詩を書いた。彩加さんがとても良いメロディをつけてくれたし、みんなの演奏も良くて、とてもきれいな曲になった。そして、これからもっと大事な曲になっていくような、そんな気がしている。

 今回、入場特典としてマッチ箱を配ることにした。サヌキさんのイラストを友だちがデザインしてくれた、とても可愛い箱。マッチの灯りは小さな小さなものだけど、寂しくなったり悲しくなったりしたときに、そっと側にあるお守りのようになればいいなと思う。怖がるものじゃなく、温めたり集まれるようにするためのものに。中身は空っぽのマッチ箱。小さなその中にしまわれるものが、あなたにとってのなにかひとつなくしたくないものや大切にしたいものに、そうなりますように。

福富優樹

『Torch Song』

Homecomings presents

「PET MILK」

2019.12.22(sun)
TOKYO EBISU LIQUIDROOM

Thank you!!!

photo by shiori ikeno

SET LIST

1. Songbirds
2. Hull Down
3. Parks
4. PLAYYARD SYMPHONY
5. Wonder Wander
6. HURTS
7. Smoke
8. ANOTHER NEW YEAR

—— Acoustic Set ——
9. So Far
10. Moving Day Part1
11. Drop
12.WINTER BARGAIN
13. LIVING LIFE (Daniel Johnston)
————————–

14. WELCOME TO MY ROOM
15. Continue
16. Torch Song
17. BUTTERSAND
18. LIGHTS
〜 Corridor
19. Blue Hour
20. Cakes

——— Encore.1 ———
1. GREAT ESCAPE
2. Pedal
3. I WANT YOU BACK
——— Encore.2 ———
4. Whale Living

SET LIST

1. Songbirds
2. Hull Down
3. Parks
4. PLAYYARD SYMPHONY
5. Wonder Wander
6. HURTS
7. Smoke
8. ANOTHER NEW YEAR

—— Acoustic Set ——
9. So Far
10. Moving Day Part1
11. Drop
12.WINTER BARGAIN
13. LIVING LIFE (Daniel Johnston)
————————–

14. WELCOME TO MY ROOM
15. Continue
16. Torch Song
17. BUTTERSAND
18. LIGHTS
〜 Corridor
19. Blue Hour
20. Cakes

——— Encore.1 ———
1. GREAT ESCAPE
2. Pedal
3. I WANT YOU BACK

——— Encore.2 ———
4. Whale Living

GOODS

Exhibition of Sanuki Naoya

「TOTALLY CONFUSED in HOTEL HECTOR」

2019.12.21(sat)〜12.23(mon)
KATA(LIQUIDROOM 2F)

Thank you!!!

20191224_191227_0007

Homecomings福富優樹が原作、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を担当したマンガ『CONFUSED!』の単行本が10月に刊行されてから2カ月。発売記念トークイベントやシャムキャッツとの対バン・リリースパーティーなどを経て、作品の総決算となる展示が12月21日(土)から23日(月)まで恵比寿リキッドルームの2階ギャラリーKATAで開催される。「CONFUSED !」からスピンオフした本キービジュアルを中心とするサヌキナオヤの作品(描き下ろしふくむ)が、物語の舞台となるホテル・ヘクターをコンセプトとした空間に展示される。連載が開始された2019年1月からちょうど1年。長らく続いた「混乱」の幕が下りる!?

Homecomings

pro_hom

L→R 福富優樹(Gt.)、福田穂那美(Ba./Cho)、畳野彩加(Vo./Gt.)、石田成美(Dr./Cho)

京都を拠点に活動する4ピース・バンド。The Pains of Being Pure at Heart / Mac DeMarco / Julien Baker / Norman Blake(Teenage Fanclub)といった海外アーティストとの共演、3度に渡る「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演など、2012年の結成から精力的に活動を展開。

2016年2ndフルアルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』、2017年に5曲入りEP『SYMPHONY』をリリース。同年新たなイベント「New Neighbors」をスタート、Homecomingsのアートワークを手掛けるイラストレーター”サヌキナオヤ”氏との共同企画で彼女たちがセレクトした映画の上映とアコースティックライブを映画館で行っている。

FM802「MIDNIGHT GARAGE」での月1レギュラーコーナーは3年目に突入、2018年4月から始まった京都αステーションでのレギュラー番組「MOONRISE KINGDOM」は毎週水曜23:00放送中。また4月21日全国ロードショーとなった映画「リズと青い鳥」の主題歌を担当。2018年10月24日待望のサード・アルバム『WHALE LIVING』、2019年4月、映画「愛がなんだ」の主題歌となった『Cakes』をシングルCD+DVDの形態でリリース。

Naoya Sanuki

イラストレーター/漫画家。

1983年京都市生まれ。チャールズ・ブコウスキー、坂口恭平、滝口悠生などの小説の装丁や、雑誌『POPEYE』(マガジンハウス)の表紙など書籍雑誌のイラストを手がけるほか、漫画執筆、アニメーション制作など。またアートワークを担当するバンド「Homecomings」と共に、映画と音楽のイベント「New Neighbors」を共催している。

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